決算対策の基本

決算対策はいつまでに何をやるか — 決算月からの逆算カレンダー

決算対策で打てる手は、その会社の業績や規模よりも先に、「決算月まで残り何ヶ月あるか」でほぼ決まります。3ヶ月前ならほとんどの選択肢が残っていますが、期末1ヶ月を切ると使える制度は数えるほどになり、決算日を過ぎるとできることはほぼありません。同じ利益額でも、動き出す時期が違えば取れる打ち手はまったく変わります。

この記事は、決算対策を「何をやるか」より先に「いつまでに動けば間に合うか」で整理したものです。決算月からの逆算で、時期ごとに残っている選択肢とその要件を、制度の根拠つきで並べます。自社が今どの時期にいるかを確認するところから読み進めてください。

決算月から逆算した4つの時期。打てる手は残り時間で決まる

3ヶ月以上前 — 選択肢がすべて残っている時期

決算月まで3ヶ月以上ある段階は、事前の計画や手続きが前提になる対策も含めて、ほぼすべての打ち手が残っている時期です。逆に言えば、この時期にしか始められない対策がいくつかあります。

1つ目は経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の加入です。掛金は月額5,000円から20万円まで、総額800万円まで積み立てられ、支払った掛金は法人の損金に算入できます。ただし加入手続きから初回の掛金が引き落とされるまでには一定の期間がかかるため、期末間際に思い立っても今期に間に合わないことがあります。加入そのものを早めに済ませておくと、後述する年払い(前納)という選択肢も期末に使えるようになります。なお、この共済は解約時に受け取る解約手当金が益金になる課税繰延型の対策で、出口の設計が別途必要です(関連記事: 「節税」と「課税繰延」の違い)。

2つ目は旅費規程の整備です。出張日当は、旅費規程を整えて出張の実態にもとづいて支給すれば、通常必要と認められる範囲で受け取る側は非課税、会社側は損金になります。ただしこれは規程という制度を先に用意しておく必要があり、出張が発生してから慌てて作るものではありません。時間に余裕があるうちに規程を整備し、運用を始めておく対策です。

3つ目は設備投資の計画です。中小企業経営強化税制を使えば、対象設備の即時償却または税額控除が受けられます。ここで注意したいのは、この制度は原則として設備を取得する前に経営力向上計画の認定を受けておく必要がある点です。取得後に申請する例外もありますが、その場合でも設備取得日から60日以内に申請書が受理され、かつその事業年度内に認定を受けることが条件になります(A・B・D類型。拡充枠のE類型には取得後申請の例外がありません)。計画の策定と認定には相応の日数がかかるため、設備投資で節税を狙うなら、決算月の直前ではなく数ヶ月前から動き始める必要があります。

この時期にしか始められない対策があるという事実こそ、決算対策を逆算で考えるべき最大の理由です。

1〜3ヶ月前 — 今期に間に合う手を仕込む時期

決算月まで1〜3ヶ月の段階になると、新しく制度を立ち上げるのは難しくなりますが、すでに整えた仕組みを使って今期の利益を調整する手が残っています。

経営セーフティ共済にすでに加入していれば、掛金の年払い(前納)が使えます。前納した掛金のうち、前納期間が1年以内のものは、支払った日の属する事業年度の損金に算入できます。月払いを続けている場合でも、期末までに年払いへ切り替えれば、最大で12ヶ月分の掛金をまとめて今期の損金にできる計算です。ただし前納には申出の手続きと期限があるため、決算月の前月までには申し出ておくのが実務上の目安になります。

少額減価償却資産の購入計画も、この時期に検討しておく対象です。中小企業者等が取得価額40万円未満の減価償却資産を取得した場合、年間合計300万円までを取得した事業年度に全額損金算入できる特例があります(令和8年度税制改正により、令和8年4月1日以後に取得した資産から30万円未満→40万円未満に引き上げ。詳細は少額減価償却資産の特例 完全ガイド)。ただし、この特例は事業の用に供した日、つまり実際に使い始めた日が属する事業年度で適用されます。期末ぎりぎりに発注すると、納品や設置が翌期にずれて今期に間に合わないことがあるため、余裕を持った発注が必要です。

一方、この時期にはもう動かせない対策もあります。代表的なのが役員報酬です。役員報酬は原則として期首から3ヶ月以内に決めた定期同額給与でなければ損金にならず、期の途中で自由に増減できません。決算対策として今期の役員報酬を動かすことは、この時期にはもうできません。役員報酬による調整は、あくまで翌期以降の期首に向けた検討事項です。

期末1ヶ月前〜決算日 — 直前でも残っている手

決算月に入り、期末まで1ヶ月を切っても、いくつかの対策は残っています。ただし要件が細かく定められているものが多く、要件を1つでも外すと損金にできないため、正確に押さえる必要があります。

1つ目は短期前払費用の特例です。本来、前払費用は役務の提供を受けた期間に応じて費用計上しますが、法人税基本通達2-2-14では、支払った日から1年以内に提供を受ける役務にかかる前払費用について、その金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金に算入している場合はこれを認めるとされています。月払いの家賃や保険料、サブスクリプション料などを期末に年払いへ切り替えれば、今期の損金を作れます。ただし条件が2つあります。1つは支払日から1年以内に提供を受ける役務であること。もう1つは継続して同じ処理をすることで、今期だけ年払いにして翌期に月払いへ戻すような使い方は認められません。また、借入金を運用に回す場合の支払利子のように、収益と対応させる必要がある費用は対象外です。

2つ目は決算賞与の未払計上です。従業員へ支給する賞与は、原則として支払った事業年度の損金になりますが、一定の要件を満たせば、期末時点で未払いでも通知した事業年度の損金に計上できます。国税庁が示す要件は3つです。1つ目は、その支給額を各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知していること。2つ目は、通知した金額を通知したすべての使用人に対し、通知した日の属する事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内に支払っていること。3つ目は、その支給額について通知した日の属する事業年度で損金経理をしていること。この3つをすべて満たして初めて、未払いの決算賞与を今期の損金にできます。口頭だけで通知が証明できない、支払いが1ヶ月を超えた、といった場合は損金算入が否認されるため、通知書面の保管と支払期限の管理が要になります。なお役員賞与はこの取扱いの対象外です。

3つ目は10万円未満の少額資産や消耗品の購入です。取得価額が10万円未満の資産は、少額減価償却資産として取得した事業年度に全額を損金にできます。事務用品や備品の買い替え、消耗品のまとめ買いなど、もともと必要だった支出を期末に前倒しする対策です。これも実際に使い始めた日が今期に属している必要があるため、発注のタイミングには注意します。

期末1ヶ月を切ってからできるのは、こうした「支払時期・計上時期を今期に寄せる」タイプの対策が中心です。派手な効果は期待しにくく、あくまで細かい調整の範囲だと捉えておくのが実務的です。

決算日を過ぎたら — できる対策はほぼ残っていない

正直に書くと、決算日を過ぎてしまうと、その期の利益を減らせる対策はほとんど残っていません。決算対策の大半は「その事業年度中に支払った」「その事業年度中に使い始めた」ことが要件になっているため、期をまたいだ時点で適用の余地がなくなります。

決算日以降にできるのは、すでに発生している費用を漏れなく計上する程度です。期末までに提供を受けたサービスや納品された物品で、まだ帳簿に載っていないものを未払費用や買掛金として正しく計上すれば、その分は今期の損金になります。ただしこれは新たに利益を圧縮する対策ではなく、本来計上すべきものを正確に計上しているだけで、節税というより決算の精度を上げる作業です。

世の中には「決算後でも間に合う節税」をうたう情報が見られますが、その多くは決算日をまたいでいないケースを前提にしているか、翌期以降の対策を指しています。決算日を過ぎた後に「今期の税金を減らせる」と説明される手法があれば、それが本当に決算日前の要件を満たしているのかを冷静に確認したほうがよいと当社は考えています。時期を逆算して先に動いておくことが、結局は最も確実な決算対策です。

当社の場合

当社(株式会社87Technology)はマイクロ法人で、このカレンダーに沿って毎期の対策を組み立てています。

繰延型の対策としては経営セーフティ共済を導入済みで、恒久型としては旅費規程を整備した上で出張日当を運用しています。どちらも、期末間際ではなく事前に仕組みを立ち上げておいたからこそ、毎期の決算で使える打ち手になっています。共済の掛金は毎月積み立てる形で運用しており、掛金総額の上限(800万円)まで続ける方針です。

これらに加えて、当社は区分マンションを複数保有しており、建物の減価償却費が毎期の損金になっています。利益が大きく出た期には、物件の購入そのもので利益を圧縮したこともあります。ただし不動産は、金額も検討期間も共済や少額資産とは桁が違い、期末間際に思い立って間に合う対策ではありません。このカレンダーで言えば、最も早くから動き始める必要がある選択肢です。

マイクロ法人の決算対策は、こうした大きな打ち手と、共済・旅費規程・少額資産のような手数の対策を、時期を外さずに組み合わせていくのが現実的だと当社は考えています。

まとめ

決算対策は、何をやるかを考える前に、決算月まで残り何ヶ月かを確認するところから始まります。

決算対策で最も効くのは、派手な商品を期末に契約することではなく、時期を逆算して選択肢を残しておくことです。個々の対策の中身は、この記事からリンクした各記事で詳しく扱っています。決算対策商品を勧められている場合は、それが節税なのか課税繰延なのかを見極めるところから始めるのが安全です(関連記事: 「節税」と「課税繰延」の違い)。少額資産を使った対策の詳細は少額減価償却資産の特例の記事に(関連記事: 少額減価償却資産の特例 完全ガイド)、即時償却型の決算対策商品を実際に運用した記録はマイニングマシンの記事にまとめています(関連記事: 【実録】マイニングマシン節税 — 99万円分を3年運用しきった全記録)。