小規模企業共済はマイクロ法人役員に効くか — 当社の2層使い分け

小規模企業共済は、マイクロ法人の役員も個人として加入できる制度です。ただしこの掛金は法人の損金ではなく、役員個人の所得から差し引く所得控除です。経営セーフティ共済のような法人の決算対策とは、効く税金の場所が違います。
この記事は、法人側の決算対策とあわせて個人の所得税・住民税も抑えたいマイクロ法人役員に向けたものです。加入資格、役員報酬が低い場合の効果、契約者貸付、受け取り時の課税までを、法人で経営セーフティ共済を運用する当社(株式会社87Technology、マイクロ法人)の使い分けとあわせて整理します。
小規模企業共済は法人の損金ではなく役員個人の所得控除
小規模企業共済を運営するのは、経営セーフティ共済と同じ中小企業基盤整備機構(中小機構)です。名前も運営元も近いため混同されがちですが、税金のうえでの扱いは別物です。
小規模企業共済は、個人事業主・共同経営者・会社等の役員が個人として加入する制度です。中小機構も、会社等として加入することはできず個人として加入する制度だと明記しており、掛金の案内でも掛金は事業上の損金または必要経費には算入できないとしています。掛金を払うのは法人ではなく役員個人です。
その掛金は、支払った全額が小規模企業共済等掛金控除として本人の所得から差し引かれ(所得税法第75条、国税庁タックスアンサーNo.1135)、所得税と住民税が軽くなります。法人の損金にする経営セーフティ共済とは、次のように効く税金の場所が異なります。
| 経営セーフティ共済 | 小規模企業共済 | |
|---|---|---|
| 掛金を払うのは | 法人 | 役員個人 |
| 税のうえの扱い | 法人の損金 | 個人の所得控除 |
| 効く税金 | 法人税 | 所得税・住民税 |
| 掛金の上限 | 総額800万円 | 月7万円(年84万円) |
法人側の使い方と出口は、経営セーフティ共済の使い方と出口戦略で整理しています。
マイクロ法人役員の加入資格と二刀流の場合の判断
会社等の役員として加入するには、その会社が小規模企業者であることが条件です。常時使用する従業員数の基準は、製造業・建設業・運輸業などで20人以下、商業(卸売業・小売業)とサービス業(宿泊業・娯楽業を除く)で5人以下です。従業員を雇わない一人会社のマイクロ法人なら、この人数基準はまず問題になりません。加入者本人は登記された役員であることが前提です。
判断が分かれやすいのが、個人事業主とマイクロ法人役員を兼ねる二刀流の場合です。どちらの立場でも重複して加入できるわけではなく、主として携わっている事業(地位)のいずれかで加入します。どちらに主として携わっているかは加入者本人の判断による、と中小機構は示しています。
掛金は月7万円まで 役員報酬が低いと所得控除の効果は薄まる
掛金は月額1,000円から70,000円まで、500円単位で設定でき、年間最大84万円の全額が所得控除の対象です。増額・減額もできます。
マイクロ法人は社会保険料を抑えるため役員報酬を低めに設定するケースが多く、標準報酬月額を下げて社会保険料を軽くする狙いです。一方で掛金は法人の経費ではなく役員個人の手取りから払うため、役員報酬を低く抑えているほど、月7万円の上限まで出す原資そのものが乏しくなります。
しかも所得控除による節税額は、おおまかには掛金額に本人の適用税率を掛けた大きさです。所得税は累進税率なので、課税所得が低い人ほど税率が低く、同じ掛金でも圧縮できる税額は小さくなる傾向があります。報酬を絞ったマイクロ法人役員は、この税率の厚みが薄い点を踏まえておく必要があります。
では枠のために役員報酬を上げればよいかというと、単純ではありません。報酬を上げれば社会保険料(労使合計でおおよそ3割)も増え、所得控除で軽くなる税額より社会保険料の増加のほうが大きくなることもあります。課税所得がある程度ある役員ほど効きやすい制度だという前提で、無理のない掛金から検討するのが現実的だと当社は考えています。
掛金の範囲で借りられる契約者貸付制度という安全弁
小規模企業共済には、積み立てた掛金の範囲内で借りられる契約者貸付制度があります。基本の一般貸付けは、掛金納付月数に応じて掛金の7割から9割の範囲で、10万円から2,000万円まで(5万円単位)を借り入れできます。利率は年1.5%で、担保も保証人も不要です。
この制度のいちばんの価値は、積み立てた資金が完全にはロックされない点です。同じ個人の資産形成でも、iDeCoは原則60歳まで引き出せません。小規模企業共済は積み立てながら、急な資金需要が生じたときに貸付という形で低利で引き出せる、安全弁としての役割を持っています。
なお、年1.5%という金利の低さに着目し、借りた資金を運用に回すという考え方に触れる向きもあります。ただしこれは金利と運用益の差を確実に取れる無リスクの裁定ではなく、借入を元手にしたレバレッジ投資です。運用先が株式インデックスなどであれば運用がマイナスになる年もあり、1.5%を上回るリターンが保証されているわけではありません。判断材料の一つとして知っておく話であって、当然に得をする方法ではなく、返済が滞れば延滞利子(年14.6%)もかかります。
iDeCoとの併用は別枠 ただし拠出限度額の改正に注意
小規模企業共済とiDeCo(個人型確定拠出年金)は掛金の枠が別々で、一方の利用がもう一方の上限を圧迫することはなく、併用そのものは制度上可能です。
ただしiDeCoの拠出限度額は制度改正の影響を受けます。企業年金のないマイクロ法人役員が厚生年金に加入している場合、現行の上限は月額2万3,000円です。2026年12月に施行される改正により、この区分の上限は2027年1月の納付分から月額6万2,000円へ引き上げられる予定です。金額と時期は最終的な施行状況で変わりうるため、iDeCo公式サイトなどで最新の情報を確認してください。
両者は似て非なる制度です。iDeCoは運用商品を自分で選び、口座管理手数料がかかり、原則60歳まで引き出せません。小規模企業共済は所定の予定利率で運用され、手数料はなく、先ほどの貸付制度があります。一方に寄せるより、性質の違いを踏まえて役割を分けて考えるのが素直です。
受け取るときの税金 一括は退職所得 分割は雑所得
受け取り時の課税は、受け取る事由と方法で変わります。共済金は、会社の解散による共済金A、65歳以上での退任や病気・けがによる退任などの共済金B、65歳未満で病気・けが以外の理由による退任の準共済金、任意解約の解約手当金に分かれます。
受け取り方でも扱いが分かれ、一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得として課税されます。ここが要点で、退職所得には退職所得控除があり税負担が大きく軽くなるよう設計されています。入口で所得控除を受け、出口でも退職所得控除で軽くなるため、掛金がそっくりそのまま将来の課税所得に戻ってくるわけではありません。
経営セーフティ共済とはここが異なります。解約手当金は受け取った期に全額が益金になり、単純な課税繰延の色合いが濃い制度でした。小規模企業共済は繰延というより出口の課税が軽くなる設計に近く、両者を同じ繰延とはひとくくりにできません。税金が消えるのか先送りされるのか、その中間かという見極めの枠組みは、「節税」と「課税繰延」の違いで整理しています。
一方で注意も要ります。65歳未満での任意解約は一時所得の扱いになり退職所得ほど有利ではなく、納付月数が20年(240か月)未満の任意解約では元本割れの可能性、12か月未満だと掛け捨てになります。長く続ける前提で組み立てる制度です。
当社の場合 個人の所得控除と法人の損金を2層で使い分ける
当社(株式会社87Technology)はマイクロ法人で、法人側では経営セーフティ共済を利用しています。掛金総額の上限である800万円まで積み立てる方針で、これは法人の損金として法人税に効かせる器です。
一方で、当社の代表は小規模企業共済に個人として加入しています。掛金は上限の月7万円で、年84万円の全額を代表個人の所得控除として所得税・住民税に効かせる器です。
法人税と所得税は別の税金で、掛金の枠も別々です。法人の損金をいくら積んでも個人の所得税は動かず、逆もまた同じです。そこで当社は、法人の損金は経営セーフティ共済、役員個人の所得控除は小規模企業共済という2層で使い分けています。同じ代表という1人の中に、法人の器と個人の器を並べて置いている整理です。当社の決算対策の全体像は、当社が実際にやっている決算対策 全公開にまとめています。
まとめ
小規模企業共済は、マイクロ法人の役員も個人として加入できますが、法人の決算対策ではなく役員個人の所得税・住民税に効く制度です。要点を整理します。
- 掛金は法人の損金ではなく役員個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除、所得税法第75条)。会社等としては加入できない
- 掛金は月1,000円から7万円、年間最大84万円が全額所得控除。ただし役員報酬を低く抑えたマイクロ法人では原資も税率の厚みも限られ、効果は薄まりやすい
- 掛金の範囲内で年1.5%・担保保証人不要の契約者貸付が使え、積み立てた資金が緊急時にロックされない安全弁になる
- 一括受取は退職所得、分割は雑所得。退職所得控除で出口の負担が軽く、単純な課税繰延とは異なる
- 当社は、法人の損金は経営セーフティ共済、個人の所得控除は小規模企業共済という2層で使い分けている
法人と個人、どちらの税金にどの器で効かせるかを分けて考えることが、この制度を無理なく使う出発点になります。