決算対策の基本

期末1ヶ月でもできる決算対策チェックリスト — 駆け込みで間に合う手だけ

期末1ヶ月でもできる決算対策チェックリスト — 駆け込みで間に合う手だけ

決算月に入ってから「今期の利益が思ったより出た」と気づくことは珍しくありません。ただ、この段階で打てる手はかなり限られます。決算対策の大半は数ヶ月前から仕込むものなので、期末1ヶ月を切ると新しく制度を立ち上げるのはほぼ無理です。

それでも、残された選択肢はゼロではありません。この記事は、期末1ヶ月〜決算日までに現実的に打てる手だけを、適用要件と注意点つきのチェックリストにまとめたものです。決算日を過ぎたらどれも使えなくなる点も先に書いておきます。決算月まで3ヶ月以上ある会社は、この記事より前の時期に選択肢が広く残っているので、決算対策の全体像をまとめた逆算カレンダーから確認してください。

なお、ここで挙げるのは「支払い時期や計上時期を今期に寄せる」タイプの対策が中心です。派手に税額が動く手ではなく、あくまで細かい調整の範囲だと捉えたほうが実務的です。

短期前払費用を年払いに切り替える

月払いの家賃・保険料・サブスクリプション料などを、期末に一括で年払いへ切り替えると、今期の損金を作れます。根拠は法人税基本通達2-2-14(短期前払費用)です。本来なら役務の提供を受けた期間に応じて費用計上するところを、一定の条件を満たせば支払った日の属する事業年度で全額損金にできます。

要件は2つあります。1つは、支払った日から1年以内に提供を受ける役務であること。2つ目は、その処理を継続して適用することです。今期だけ年払いにして翌期に月払いへ戻すような使い方は認められません。

注意点として、借入金を有価証券などの運用に回す場合の支払利子のように、収益と対応させる必要がある費用は、1年以内であっても対象外です。あくまで支払いと役務がおおむね対応している経費に限られます。契約を年払いに変更する手続きが期末までに間に合うか、実際に今期中に支払いが完了するかも確認してください。

決算賞与を未払計上する

従業員への賞与は原則として支払った期の損金ですが、一定の要件を満たせば、期末時点で未払いでも通知した期の損金に計上できます。これが決算賞与の未払計上です。ここが要件の細かさで一番つまずきやすいので、正確に押さえます。

国税庁が示す要件は次の3つを「すべて」満たすことです。

  1. その支給額を各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知していること
  2. 通知した金額を、通知したすべての使用人に対し、通知した日の属する事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内に支払っていること
  3. その支給額について、通知した日の属する事業年度で損金経理をしていること

否認されやすいのは1つ目と2つ目です。口頭だけで通知した証拠が残っていない、支給額を後から変えた、支払いが決算日翌日から1ヶ月を超えた、といったケースは損金算入が認められません。各人別の金額を記した通知書面を作成して保管し、支払期限を管理するのが実務上の要になります。

役員賞与はこの取扱いの対象外です。使用人兼務役員の使用人部分は対象になりますが、区分の判断は慎重にしてください。

10万円未満の少額資産・消耗品をまとめ買いする

取得価額が10万円未満の資産は、少額減価償却資産として取得した事業年度に全額を損金にできます。事務用品や備品の買い替え、消耗品のまとめ買いなど、もともと必要だった支出を期末に前倒しするイメージです。

ここで外してはいけないのが、実際に使い始めた日(事業の用に供した日)が今期に属している必要がある点です。期末ぎりぎりに発注しても、納品や設置が翌期にずれると今期の損金になりません。「発注日」ではなく「今期中に使い始められるか」で判断してください。

なお、30万円未満まで対象を広げられる中小企業向けの特例は年間300万円の枠があり、こちらは別途要件があります。詳しくは少額減価償却資産の特例 完全ガイドにまとめています。

中古資産を購入して早く償却する

新品より中古のほうが、期末の駆け込みでは効きやすい場面があります。中古資産は法定耐用年数ではなく、使用可能期間を見積もった年数(見積りが困難なら簡便法で算定した年数)で償却できるためです。根拠は中古資産の耐用年数(国税庁No.5404)です。

簡便法では、法定耐用年数の全部を経過した資産はその20%、一部を経過した資産は「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数の20%」で耐用年数を算定します。2年未満になるときは2年です。耐用年数が短くなる分、1年あたりの償却費が大きくなり、初年度に落とせる金額が増えます。

ただし2つ注意があります。1つは、これも事業供用日が今期内である必要があること。取得しただけで使っていなければ償却は始まりません。2つ目は、耐用年数の算定は事業供用した事業年度でしか行えず、翌期に持ち越して算定し直すことはできない点です。10万円未満の資産と違って全額を一度に損金化できるわけではなく、あくまで償却が速いというだけなので、金額のインパクトは冷静に見積もってください。

経営セーフティ共済を前納する(既加入が前提)

すでに経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)に加入している会社なら、掛金の前納が期末の選択肢になります。前納した掛金のうち、前納期間が1年以内のものは、支払った日の属する事業年度の損金に算入できます。月払いを続けている場合でも、期末までに年払いへ切り替えれば、最大で12ヶ月分をまとめて今期の損金にできる計算です。

手続きには期限があります。中小機構の案内では、前納を希望する月の5日(土日祝日の場合は翌営業日)までに書類が到着している必要があり、実務上は決算月の前月までに申し出るのが目安です。「決算月に入ってから思い立って前納する」のは間に合わないことがあるので気をつけてください。

大前提として、これは既に加入している会社の話です。決算月に入ってから新規加入して初回掛金を前納で積むのは、手続き期間の面で現実的ではありません。加入自体は数ヶ月前から動く対策で、そちらは逆算カレンダーの範囲です。共済は解約手当金が益金になる課税繰延型で、出口の設計が別途必要な点も忘れないでください。

未払費用・未払金の計上漏れをチェックする

派手さはありませんが、期末に必ずやっておきたいのがこれです。期末までに提供を受けたサービスや納品された物品で、まだ帳簿に載っていないものを、未払費用や買掛金として正しく計上する作業です。

外注費、水道光熱費、通信費、社会保険料の会社負担分など、翌月に請求が来るものは計上漏れが起きやすい項目です。今期に発生した費用を今期に落とすだけなので、新たに利益を圧縮する対策ではありません。ただ、決算日を過ぎてからでもできる数少ない作業であり、本来落とせるはずの費用を落とし忘れないという意味では効果があります。

やってはいけない駆け込み

期末に焦ると、税金を減らすつもりで逆に損をする判断をしがちです。当社が「これは避ける」と整理しているものを挙げておきます。

1つ目は、事業に必要ない備品の無駄買いです。10万円未満の資産を全額損金にできると聞くと買いたくなりますが、100万円使って減るのは法人税の一部(実効税率で考えても数十万円)です。使わないものに現金を100万円払って数十万円の税を減らすのは、差し引きでは現金が減るだけです。決算対策で買うのは「もともと今期か来期に必要だったもの」に限るべきだと当社は考えています。

2つ目は、期末後に納品・提供される発注をして今期の損金にしようとすることです。ここまで見たとおり、少額資産も中古資産も事業供用日が今期内でなければ意味がありません。発注書の日付が今期でも、モノが翌期に届けば今期の損金にはなりません。

3つ目は、役員報酬の期中変更です。今期の利益を役員報酬で調整しようとしても、役員報酬は原則として期首から3ヶ月以内に決めた定期同額給与でなければ損金にならず、期の途中で自由に増減できません。決算対策として今期分を動かすことは、そもそもできないと考えてください。役員報酬は翌期の期首に向けた検討事項です。

当社の場合

当社(株式会社87Technology)はマイクロ法人で、期末の駆け込み対策として現実的に使えるのは、ここまで挙げた「支払い時期を今期に寄せる」系の手数の対策だと割り切っています。

繰延型の対策として経営セーフティ共済を導入済みで、月払いで積み立てています。これは事前に加入を済ませてあるからこそ、期末に前納という選択肢を持てている状態です。裏を返せば、加入していなければ期末の駆け込みでこの手は使えなかったということでもあります。

当社が毎期の決算で実感しているのは、期末1ヶ月でできることは限られるという事実そのものです。効果の大きい対策は、共済にせよ設備投資にせよ不動産にせよ、数ヶ月前から動いた分だけ選択肢が残ります。駆け込みで慌てないためにも、時期を逆算して先に仕込んでおくのが結局は一番効きます。

まとめ

期末1ヶ月〜決算日に打てる手は、次のとおりです。いずれも「支払い・計上を今期に寄せる」タイプで、要件を1つでも外すと損金にできない点は共通します。

やってはいけないのは、必要ない備品の無駄買い、期末後納品になる発注、役員報酬の期中変更です。決算月まで3ヶ月以上ある場合は打てる手がもっと広いので、決算対策の全体像はこちらの逆算カレンダーを、少額資産の詳しい要件は少額減価償却資産の特例 完全ガイドを参照してください。


本記事は一般的な税制の解説および当社自身の事例の紹介であり、個別の税務判断を行うものではありません。税制は改正される可能性があります。実際の適用にあたっては、顧問税理士等の専門家にご確認ください。